イッキ見注意!
『どうやら相当、面白いらしい。』という評判を聞いて、試しに1話見始めたら最後、全8話イッキ見してしまった! NETFLIXのドラマ・サンクチュアリ-聖域-のことである。これはイッキ見注意だ。
5月4日の配信開始から6月に入った今でもNETFLIXのベストにずっと名をつらねている人気作。すでに鑑賞した方も多いのではないだろうか。
相撲に興味がなくても存分に楽しめるし、海外の人達から見たら相撲の認識が変わるぐらいのインパクトがある作品だ。
今回はそのサンクチュアリ-聖域-の楽しめるポイントを【ネタバレ注意】で語ってみたい!
サンクチュアリ-聖域-の楽しめるポイント
殺気のこもったアクション!
主人公の猿桜(一ノ瀬ワタル)を筆頭に部屋の力士キャストの相撲シーンがひたすらリアルで迫力がある。
本物の力士さながらのぶつかり合いは見ているだけで緊張感があり、『本当に身体、大丈夫?』と心配になるくらいだ。撮影期間は1年以上あり、身体作りや相撲の稽古を本物の相撲部屋さながらに行なっていたようだ。
朝稽古➡ちゃんこ➡昼寝➡稽古➡ちゃんこ➡就寝 これを毎日繰り返して力士の身体と技術を手に入れていった。監修は元力士で元プロレスラーの維新力浩司。猿将部屋御用達の焼き鳥屋大将役で出演もしている。
元力士のキャストも出演していて、静内(住洋樹)猿谷(澤田賢澄)高橋(めっちゃ)は元力士。主人公の猿桜(一ノ瀬ワタル)も元格闘家、キックボクサーであった。
殺気のこもったアクションを作り出せたのは、実際に土俵やリングに立った経験が大きいのかもしれない。
キャラのオンパレード!
これでもかと言うくらいの個性あふれるキャラのオンパレードがこのドラマの売りの1つ。中でも母親役の余貴美子、父親役のきたろう、呼び出し役の染谷将太は特筆すべき名演である。
ビジュアルが素晴らしく良いのに日本の映画界からは使い所がいまいち定まらずにいた忽那汐里も今回頑張っていて、彼女演じる国嶋飛鳥のビルドゥングスロマン(成長譚)としても楽しめる。
部屋の力士の顔芸も良い。猿空(石川修平)の嫉妬に狂った表情や猿河(義江和也)の小憎たらしい表情が、『漫画かよ!』ってくらいの面白さだ。
悪役も良い味を出していた。犬嶋親方(松尾スズキ)、馬山親方(おむすび)のコミカルな悪の親方コンビや龍谷部屋のタニマチ伊藤(笹野高史)の底知れぬ不気味さも素晴らしい。
どうしても気持ちがのってしまう!
主人公の猿桜こと小瀬 清は北九州市門司出身の設定で演じる一ノ瀬ワタルもほぼ同郷の久留米市出身。主人公と同じように格闘家として上京、役者に転身した後もしばらくは悶々とした下積みを経験している。この役にかける気持ちと主人公の角界で上り詰めるという気持ちが見事にリンクする。
主人公の不器用な性格も『人生ってそう上手くはいかないよなぁ。』『若い頃って器用に立ち回れなくて、いろいろぶつかってたよなぁ。』って自分に思い返して感情移入してしまう。
猿将親方役のピエール瀧もそうだ。うだつの上がらない弱小部屋で、我が子のように手塩にかけた力士が怪我。協会からも目の敵にされている。それでも部屋に昔の自分みたいな目をした問題児が入ってきて…。
『瀧さん、いろいろあったよなぁ。』『この作品でリベンジだ!』って気持ちになる。世間のいろんな声にさらされて、やりこまれたピエール瀧の本格役者復帰と猿将親方の状況。こちらにも感情移入してしまう。
奇しくも、一ノ瀬ワタルとピエール瀧は新井英樹の名作漫画『宮本から君へ』の実写映画で親子役で共演している。こちらも2人とも良い味を出しているので、未見の方は是非!
角界と真っ向勝負!
日本でできる映像表現にはいろいろな成約(タブー)がある。このドラマはそんな成約(タブー)をNETFLIXの潤沢な資金とキャストの血肉が通った演技の”突き押し相撲”で土俵を強引に割らせたような痛快なドラマである。
角界のタブーである“可愛がり”と”八百長”。この2つを真っ向からドラマの中で描いたのは今までの相撲作品には無かったことだ。“可愛がり”は物語の性質上、描く必然性があったが、“八百長”の方はあえて物語の中に入れこんだ感がある。
とくに終盤の岸谷五朗扮する龍谷親方に星の貸し借りがあると言わせたのは確信犯だ。何度か入るカラオケシーンにも、おっさん世代はニヤリとしてしまう。完全なる匂わせだ。
また、女性が土俵に上がれないという昔ながらの謎の風習や角界固有の独特な文化である“タニマチ”にもスポットを当てていて、そこも良い。
豪華なセット!
NETFLIXの日本作品にはセットは無くてはならないものの1つだ。何故なら街中の撮影や道路での撮影、企業や団体の撮影協力が他の国よりも取りづらいし、取るとしても時間がかかるからである。
スムーズに撮影をしていくためにはセットを作るのが必須であり、結局近道だ。以前のNETFLIXドラマ『全裸監督』でも作り込まれた80年代の歌舞伎町のセットが話題になった。
そして、今回のセットはまさに大相撲の聖地“両国国技館”である。実際の両国国技館で撮影するわけにもいかないので、巨大なセットを何ヶ月にもわたって作り込む必要があった。
この両国国技館、主人公を含めてほとんどが幕下力士達の物語なので、観客がまばらだ。ここで感じるのは、まばらなのに国技館に見えるところだ。
通常、人をぎっしり入れるとセットの作りは誤魔化される。しかし今回は観客がまばらな国技館を舞台に撮影しなければならない。誤魔化しが効かないのだ。それなのに国技館に見えるということはどれだけリアルに作り込んでいるかだ。
正直、ここまでお金をかけて豪華なセットが登場すると、本物でロケをする事の意義を考えさせられる。
真剣に漫画を作る。
と、ここまでサンクチュアリ-聖域-の楽しめるポイントをあげてみた。ここからは少しサンクチュアリ-聖域-を或るおっさんの目線で考察してみた。
小学生の頃から漫画が日常にあった。月曜日、学校が終わったら、少年ジャンプを立ち読みしに本屋に行った。その頃(86年から90年あたり)の本屋は基本、立ち読みを注意しないので、心おきなく日が暮れるまで漫画を読んでいられた。
ジャンプ黄金期でドラゴンボール、スラムダンク、ろくでなしBLUESなどの今でも語りぐさになる熱い漫画が誌面を飾っていた。中学生時代は少年サンデー、少年マガジンまで読む幅を広げていった。
高校時代はヤングマガジンにハマり、登下校時の地下鉄の車内で漫画を読んでいた。当時のヤングマガジンは行け!稲中卓球部、バレーボーイズ、ドラゴンヘッドなどで青年誌特有の少しエロな描写の漫画も多数あった。
今では考えられないことだが、地下鉄の車内では当たり前のようにサラリーマンから学生まで漫画誌を広げて読みふけっていた。
その頃、大人も子供もみんな漫画の影響を受けていたし、漫画を通してあらゆる事を学んだ。我々おっさんは漫画世代なのである。
そしてこのドラマを見て感じたのは“真剣に漫画を作ったドラマ”であるということ。
このドラマは漫画原作ではないし、作り手側にはそんな意図はないのかもしれないが、監督の江口カンも脚本家の金沢知樹も確実に私達おっさん世代のように漫画に育てられてきたのだと分かる。その精神の結露が作品にダダ漏れている。
このドラマを見終わった時の感覚は漫画をイッキ読みした時のそれと似ている。小林まことの柔道部物語や新井英樹の宮本から君へをイッキ読みした時の感覚。
少しやり過ぎぐらいのキャラクターの表情やテンション、アクションの構図、悪役のケレン味たっぷりのセリフまわし、そして7話・8話からのカタルシスとスピード感は本当に漫画である。
漫画の映画化やドラマ化では評価以前の問題に読者のイメージとの戦いがある。これがある限り評価で100点は絶対にとれない。それぞれの読者のイメージと戦うことになる。
しかし、この手法で映像作品を作り出せれば、作り手が真剣に漫画を作るように映像作品を生み出せれば、その作品は成功する確率が格段にあがる。去年流行ったRRRや今年のエヴエヴしかり。古くはロッキーやインディジョーンズ。すべて漫画といえば漫画なのだから。
まとめ
サンクチュアリ-聖域-は日本のエンタメ作品としてある意味、到達したような作品だ。
そしてその内情の1つは真剣に漫画を作りあげたこと。この手法が今後の映像作品の試金石になるかもしれない。どれだけ漫画か?
何故なら日本の少子高齢化で視聴者の大多数は漫画世代のおっさん達なのだから。
★★★★★星5つ
おっさん世代ならとくに必ず見るべき作品である。