シン仮面ライダーを見た!
GWに入り、シン仮面ライダーを鑑賞してきた!じつは見ようか見まいか迷っていたのだが、今回シン・エヴァンゲリオンの番外編が同時上映になったのをキッカケに、鑑賞を決意した。それこそ見るまではあまり良い評判は聞かなかったし、NHKのドキュメンタリーを見るにつけ、この作品、大丈夫なのかと思っていたのだが。
お金を払って見たのだから正直に遠慮なく感想を言わせて頂くと、『思ったより悪くは無かった!けど。』だ。
もちろんこれは庵野作品ウオッチャーとして、ある程度耐性のある或るおっさんだからの評価なので、一般のお客さんがどう感じるかは解らないけれど、とにかく今回のシン仮面ライダー、悪くはない、けど。
ここからは【ネタバレ注意】で書かせてもらうのであしからず。良い点と悪い点。
シン仮面ライダーの良い点と悪い点
キャストの頑張り
主演の本郷猛役の池松壮亮の何故かプルプル震えている感じの演技は、いきなり残酷な状況に陥ってしまった人間の消化しきれない感情とフラストレーションを上手く表現していて、これまでのマッチョなヒーロー像から、ナイーブでキレる現代的な若者へとシフトチェンジさせていて、良かった。
ヒロインの緑川ルリ子役の浜辺美波も説明ゼリフも聞いてて苦じゃ無いくらいチャーミングで、良くも悪くもアニメの世界から飛び出してきたようなキャラ。ここに行き着いたのも試行錯誤の末だろうと感じさせた。何よりどんなシーンでもフォトジェニック(写真や映像の映えがある)だ。映画は女優を美しく撮れればその時点で成功であると言われているくらいなので、彼女の存在が映画のグレードを上げていると言っても過言では無い。
その他にも脇を固めている俳優陣が地味に良いのがポイント。森山未来・竹野内豊・斎藤工・長澤まさみ・塚本晋也・松尾スズキ・手塚とおる・声では大森南朋が今回の出演陣で特筆できる“仕事しっかりぶり”で良かったと感じる。
少しきびしかったのが西野七瀬と柄本佑。西野七瀬はセリフが多い分、少しアラが見えてしまった感が強い。ツインテールの女王蜂なのだから、もう少し狂った感じをだしたかった。
柄本佑もこの物語の中での明るさ担当みたいなところがあるキャラなのだから、もっと振り切っても良かったと思う。
とは言うものの、作品の性質上、(庵野作品は出演者の演技よりもカメラ位置や編集至上主義)相当数のテイクを重ねて、いろんなパターンの演技をしてここに決まったわけで。ようは監督が選んだのがこれだったという事だから、演者は悪くないのかもしれない。
秀逸なデザイン
後ろ髪が出ている仮面ライダーは生身っぽさがあって格好良い。グローブもエヴァっぽくてゴツゴツなのが良い。最後の戦いでライダーの仮面やスーツが半壊して、素顔の部分などがあらわになる演出があればなお良かった。
ほかにも、クモオーグやハチオーグのコスチュームやマスクデザインは格好良かった。クモオーグの赤いライダースみたいなのも良い。ショッカーの戦闘員のマスクもなかなか!
サイクロン号も素晴らしかった!単独で後からゆっくりついてくるサイクロン号は可愛らしかったし。
自分の好みじゃなかったのが、KKオーグ・コウモリオーグ・チョウオーグ・サソリオーグ。
KKオーグは掛け合わせて顔が半分ずつ違うって、デザイン安易だし、もう少しなんとかなったんじゃって思う。コウモリオーグみたいに剥き出しでも良かったんじゃないのか。
コウモリオーグはクリーチャーを出すときの鉄則に踏まえて、画面暗くしてあからさまにしないように工夫すればもう少し見れたんじゃないかと思う。クリーチャーは明るいところではそのちゃちさが際立つわけで。エイリアンもプレデターも登場シーンは画面暗いでしょ?明るいとこでパタパタ飛んじゃって、萎えるわと思う。
チョウオーグはまんま平成ライダー感が出てて、これも剥き出しか、プロトタイプ感が出ているデザインでいけば良かった。羽化してこの姿になってるわけでしょ?『この人、改造されて取り返しのつかない感じになってる!』ってのがほしいとこ。シュッと格好良くなってどうする。
サソリオーグはマスクの肌色の部分がダサい。キャラ的にSM的な造形でいくらでも格好良くできるはずなのに。あと左手のハサミ部分がちゃちい。
前半の演出とアクション
前半のやたら血が吹き出す演出が残酷さが出ていて素晴らしかった。ロングコートを羽織ってのアクションも格好良い。と同時にグローブとブーツが黒いのが残念。手や足に血糊がついても目立たない。エヴァみたいに紫のボディカラーなら血も目立つのに。ここらへんは仕方ないのかもしれないが。
アクションは全編、前半のテンションで行ってほしかった。後半に行くにしたがって、グダグダ感が増してくる。最終戦のチョウオーグとの戦いはその頂点で、揺れるカメラワークで臨場感凄いでしょって言わんばかりの荒い映像。
NHKのドキュメンタリー映像でも映されていたが、泥試合中の泥試合。いくら怪人VS怪人だから力が拮抗してるんでって言われても、『2人がかりで何やってんの!』ってツッコみたくなるようなアクションに仕上がっている。
それでも、出だしからハチオーグを倒すあたりまでのアクションと巧みに初代仮面ライダーリスペクトを織り混ぜながらの見せ方はさすがだと思う。
各種設定の妙
政府機関が強いのも面白い。サソリオーグとハチオーグは実質、政府機関が倒した感じだし、その気になればおそらくショッカーを壊滅させる力を持っているのだが、仮面ライダーを利用してショッカーと戦わせる事をあえて選んでる。そのあたりの大人のリアルさが良い。先進的な技術をすべて手にしたい政府機関の欲深さが見えて、上手い設定だ。
ショッカーの設定が純粋な悪の軍団から持続可能な幸福を追求する組織に変わっている。なんか宗教じみていて現代的でリアルな改変だ。人類補完計画みたいで非常に良いと思う。創設者の男(松尾スズキ)のエピソードも面白い。実際にショッカーが設立されるとしたらこんな感じなんじゃないか。
設定の穴としてはショッカーがそれぞれの怪人をしっかり統率している感じがしないことだ。なんかバラバラな感じ。これで、『裏切り者には死を!』って言われても、なんだかなぁって思ってしまう。それと一般の人達が困ってる感じが希薄で、『おのれショッカー、許さん!』って感じがしない。仮面ライダーが戦う動機が少ない。
シン仮面ライダー、何故こうなった?
良い点と悪い点をそれぞれ書いてみた。
総評としては最初に書いたように、『思ったより悪くは無かった!けど。』だ。何故そのような映画に仕上がってしまったのかを考察してみた。
監督は”碇シンジ”である。
『自分のイメージの外に面白いものがある。』と庵野監督は今回のドキュメンタリーでも、シンエヴァのドキュメンタリーでも発言している。
自分の中には何もなく、スタッフや現場での試行錯誤の中から面白いものが生まれる。と、信じている。
自分のイメージをそのまま出せないというのは、エヴァの旧劇場版でファンに散々叩かれたトラウマなのかもしれないが。
そのためスタジオカラーの旧知のスタッフは右往左往し続けなければならない。提案をし続けて、もう出ないというギリギリのラインのところまで追い詰められる。
今回の映画では演者のライダー達も含め、アクション監督もその右往左往に巻き込まれたわけだ。その辺はNHKドキュメンタリーに詳しく出ていたが、スタッフ達はこれに消耗され、疲弊して、現場には殺伐とした空気が流れていた。
監督の分身である“碇シンジ”もまたエヴァの作中でウジウジ悩み続けて、初めて自分の意志を見せた瞬間にサードインパクトを起こして、すべてを壊してしまう。そしてまた自分の殻に閉じこもるということを繰り返す。結果、周りの導きや教訓よってしか自分を見出だせない。庵野秀明と碇シンジはよく似ている。
困ってしまうのはこれが映画の監督という点である。
必要なのは樋口真嗣。
出演者やスタッフに自分のイメージを伝え、演技案やアイデアなどを取捨選択していく作業をしなければ、現場はスムーズに回らないし、今回のような殺伐とした現場になってしまう。
思うに今回、監督に樋口真嗣が不在だったのがシン仮面ライダーが振るわなかった原因だ。庵野秀明を製作総指揮にすえて監督を樋口真嗣にすれば少なくとも、シンウルトラマンに肩を並べるか、超える映画になっていたのかもしれない。
樋口真嗣と庵野監督は旧知の間柄で、こと実写の監督業においては彼のムードメイカーぶりや出演者との距離感のとり方などは庵野監督よりも断然上である。
うまい具合に樋口真嗣が庵野秀明の緩衝材として働かなければならなかった。
詳しくはこちら!
NHKドキュメンタリーありきの内容。
ここまで何度か出てきたように、この映画のポイントとして、NHKのドキュメンタリーを見ることが必須なのである。
これを見ることによって『あー、庵野監督っていう困りものの監督がいて、現場は殺伐としてて、そんな中で絞り出すように作った映画なのねー。』ってのが初めてわかる。
映画の鑑賞前か鑑賞後にドキュメンタリーを見ることが前提。それを踏まえてようやく面白い部分を見つけられる。『うん、思ったより悪く無いじゃないか。』って思える。同時上映でエヴァの番外編をやってる場合じゃなく、1時間のドキュメンタリーを同時上映すべきである。
シンエヴァに続いて、また違った形のメタ構造になっているのである。
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まとめ
シン仮面ライダーは困った作品でNHKのドキュメンタリーを見て初めて楽しめる。ドキュメンタリー込みで
★★★☆☆星3つ
といったところである。しかし、おっさんがここまでいろいろ語ることがあるのだから、興味深い作品であることは確かだ。ある意味、シン仮面ライダーの勝利なのかもしれない。
映画を見てあーだこーだ語るのが好きな人は是非鑑賞してはいかがだろうか。