何だろう、この懐かしさ。
最近、或るおっさんがハマっている音楽が少年キッズボウイというバンド。
少年キッズボウイは2020年に結成された男女混成バンドで、男性・女性のヴォーカル2人、ギター2人、ベース2人、ドラム、トランペットという賑やかな編成の8人組のバンドだ。
このバンドを言葉で表すなら『歌のお姉さんを渋谷デートに誘ってみたレコード好きなキッズ達。』って感じのバンド。
ホーンの音と女性VO・アキラの澄んだ声が印象的。曲によっていろいろな表情を見せるバンドなのだが、昔のソウルミュージック(スティービーワンダーやビリープリンストンを連想させる)は勿論のこと、土台にはパンクロックからニューウェイブ、とくにスタイルカウンシルやフリッパーズギター、ピチカート・ファイヴを通過している感じがする。
個人的には90年代の渋谷系やスウェディッシュポップのブームを思い出してしまう。なんだろう、この懐かしさ。
キューピーマヨネーズのcmに使われそうな感じだ。
独特な詞の世界感
歌詞も独特で、少し残酷な少年のような純粋な歌詞。それでいてキャッチー。
ベイベー ぼくらが生まれた街で
海賊たちがみんなを殺す
列に並んで、なけなしのパンと
死んだプライドを差し出すのです。
出典・少年キッズボウイ/ぼくらのラプソディー
字面を見ると何やら穏やかじゃない歌詞なのだが、悲壮感無しで明るく歌い上げているので、気にならない。そこが良さである。
学生街は色めいた
金の時計をなくした娼婦が
腐った野良犬の死体を
横目に甘い愛を囁くのさ
出典・少年キッズボウイ/南池袋セントラルパーク
隠喩などではなく、不条理をただ歌う。私達が生きて、ただ生活するのって本当はこういう感じなんだよねって少しシニカルな感じだ。
足が無くなって 腕がちぎれて 二度と動けないとしても
言葉じゃなくて 身体でもなくて 君に届けば良かったんです。
クソ喰らえ人類 僕らが死んで 二度と夜が明けなくても
オール・ユー・ニード・イズ・ラブ ウォー・イズ・オーバー ぼくらの惑星で
出典・少年キッズボウイ/最終兵器ディスコ
ジョン・レノンの引用もある、愛と反戦の歌。ファンキーな曲調の最新作だ。この世界を何処かクールな俯瞰した目線と同時に、『だからこそ楽しくいこうぜ!』的な詞の世界感がある。
ほとんどの作詞作曲、そして漫画を担当しているのがギターの“こーしくん”。なんか才能が凄い。
そのうちこのバンドは、スカパラと共演することであろう。(願望。)
詳しくはこちら!
羊の夜をビールであらう
歌詞の事を語る時によく引き合いに出されるのがスピッツ・草野マサムネの詞の世界感。
数あるスピッツの名曲の中で私が1番好きな楽曲がアルバム“ハチミツ”の曲で“ルナルナ”という曲だ。
ちなみに、この“ハチミツ”というアルバムはおっさん世代のマスターピースである。スピッツが好きでも嫌いでも、後にも先にも、何はともあれ、おっさん世代はこの“ハチミツ”というアルバムを通過してきた過去がある。
羊の夜をビールで洗う 冷たい壁にもたれてるよ
ちゃかしてるスプーキー みだらで甘い 悪の歌
出典・スピッツ/ルナルナ
アップテンポでグルーヴィーなこの“ルナルナ”という曲の“羊の夜をビールで洗う”という歌詞に当時高校を卒業したくらいだった私はやられた。
何なんだこの頭に残るワードは。
スピッツの楽曲は意味の成さない言葉や響きだけで歌詞ができているのかと思いきや、なんか、たまに芯をついてくるというか。油断ならない天才だ。
あらためて歌詞の考察サイトなどを見てみると、この曲はやはりファンの間でも人気の曲で、『失恋した男がプール付きのラブホテルで1人きり悶々と過ぎ去ってしまった恋を思い出している。』という曲なのだそうだ。
……なんか本当は暗い曲だったんだなぁ。
“羊の夜をビールであらう”も恋人のことを思って眠れぬ夜を過ごした事をビールを飲んで忘れるということか。はたまた、羊の対義語の狼、つまり狼になれなかった夜の事を悔いてビールを飲んでるのかってところなのかもしれない。
男のあるあるネタの1つだ。そのあるあるをワードセンスで曲に落とし込んでいるのが素晴らしい。
暗い現実や現状を明るく歌うところに、スピッツと少年キッズボウイ、共通するところがある。
バスルームで一人きり大暴れ。
“ルナルナ”の歌詞とともに思い出させる楽曲がもう1つ、フリッパーズギターの“バスルームで髪を切る100の方法”がある。
この曲も共通して、アップテンポでグルーヴィーな曲調。こちらは男女恋愛の後期に現れる倦怠感やその後のまた同じ事を繰り返してしまう男のさがを爽やかに歌っている。
『バスルームで一人きり大暴れ』ってワードも先程の“ルナルナ”の世界観と似ている。
そして気になるところが歌の主人公がピストルをポケットに忍ばせていること。
髪を切るさ バスルームで一人きり大暴れ
ピストルならいつでもポケットの中にあるから
鏡のぞく 僕の顔を ハサミが切る 切り裂いてく
ほら、バスルームで続くのさ One-Hundred!
出典・フリッパーズギター/バスルームで髪を切る100の方法
明るい情景とホテルのバカンス感、なのにハサミ・髪を切る・ピストルと死を連想させるワード。やろうと思えば、いつでもいけるって感じの情緒。
サリンジャーの短編『バナナフィッシュにうってつけの日』をイメージさせる。
ビーチサイドのホテルでミュリエル・グラース夫人はニューヨークの母親からかかってきた電話をとる。母親は娘の夫であるシーモア・グラースと娘のことをしきりに心配している。
ビーチでは黄色い水着を着た幼女シビル・カーペンターが母親にサンオイルを塗られながら、「もっと鏡を見て(See more glass)」と何度も繰り返している。シビルは砂浜の上で仰向けに寝転がっている青年シーモアと出会う。2人は数日前からお互いが同じホテルに泊まっている、という程度の顔見知りである。シーモアはシビルにバナナフィッシュをつかまえようと提案して海に入る。バナナフィッシュはバナナが入っている穴に泳いでいく魚だと説明し、今日はバナナフィッシュにうってつけの日だと言う。
「「あのね、バナナがどっさり入ってる穴の中に泳いで入って行くんだ。入るときにはごく普通の形をした魚なんだよ。ところが、いったん穴の中に入ると、豚みたいに行儀が悪くなる。ぼくの知ってるバナナフィッシュにはね、バナナ穴の中に入って、バナナを七十八本も平らげた奴がいる」」
波がやってきて2人を襲うと、シビルは「バナナフィッシュが一匹見えた」と言う。シーモアはシビルの土踏まずにキスをする。
ホテルに戻ったシーモアは、一緒にエレベーターに乗った女性へ軽いいいがかりをつける。部屋に戻ると、妻は眠っている。彼女を見つめながらシーモアは拳銃で自分のこめかみを撃ち抜く。
出典・ウィキペディア/バナナフィッシュにうってつけ日
戦争で深く心に傷をおっている主人公で、バナナフィッシュは兵士、バナナは戦争で殺した人の暗喩。
少女は主人公が勝手に想像したバナナフィッシュという存在を見えたと嘘をついてあげる。本当はいるはずのないバナナフィッシュを。その優しさに主人公は嬉しく思って土踏まずにキスをする。
小説では主人公の内面などは一切出てこない。ただただ美しい情景と光量、子供と無邪気に遊ぶ主人公。
フリッパーズが何処までこの小説を意識して作詞したのかは解らないが、世界観がよく似ていて、辛い現状や心の闇を明るい曲調の奥に隠す手法が活きている。
まとめ
少し飛躍し過ぎた感もあるが、少年キッズボウイもこれらの詞の世界の文脈に乗っていると感じる。
まぁ、詞だけで音楽を聴くわけじゃないので、この詞の世界感というのも、少年キッズボウイというバンドの魅力のごく一部分ではある。
私は音楽のプロでもないので、わかりやすい部分を切り取ってみたにすぎない。
おっさんになると音楽を聴かない時期が出てくる。
昔は寝る時もTV見ながらでも本や漫画を読みながらでも、どんな時でも音楽を聴いていたが、少しずつながらマルチタスクが苦手になり、音楽を聴くことが億劫になってくる。
サブスクでもプレイリストを作って、それだけで満足して聴かないとかそういった状況が出てくるのである。
そんな中で、たまに出会えるこういったバンドは本当に嬉しく思うし、貴重だ。(ちなみに前回そんな気持ちになったバンドはLucky Kilimanjaroだった!)
同じおっさん世代に良さをリコメンドしたいと思い今回ブログに紹介させてもらった。
少年キッズボウイ、気になったら是非聴いてみてほしい!
或るおっさん(SHING)のプレイリストはこちら!
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